「送っていくよ。駅までで大丈夫?」



 あたしはベンチから立ち上がり、「はい!」と元気良く返事をし、先輩と来た道を戻るように一緒に歩き進めた。


 公園を出ようとする間際、白い仔犬のお散歩をさせているおじさんとすれ違う。


 すれ違い際に、その白い仔犬が尻尾を振らせると、足を止めた誠二先輩はしゃがみ込み、その犬と戯れ始めた。



「可愛いなあ、お前」



 おじさんはその場で立ち止まり、愛嬌のある笑顔を浮かべながら戯れる様子を黙って見ている。


 白い仔犬が、誠二先輩の長い指先をペロペロと舐める度、先輩はくすぐったそうな顔をしながらも、もう一方の手で仔犬の頭の上を優しく撫でていた。



「くすぐってぇよ」



 あたしは微笑ましい気持ちでその様子を眺めていた。


 じゃあな、と言って仔犬の頭をくしゃりと撫でた誠二先輩は、飼い主さんのおじさんに軽く会釈すると、おじさんもそれに応えるように頭を軽く下げた。



「先輩、犬好きなんですか?」

「うん。好きだよ。うちは飼ってないけどね」

「あたしも飼ってないですけど、犬好きです」

「さっきの犬、本当に可愛かったよな」



 そう言って無邪気に笑う先輩は、少し幼い男の子の表情に見えた。


 先輩の新たな一面をまた発見して嬉しくなったあたしは、一緒になって笑った。


 それから駅前まで送ってもらったあと、誠二先輩の方に身体を向けたあたしは、軽く頭を下げ、お礼を言った。



「今日はありがとうございました」

「いいえ、いいえ、こちらこそ。観たい映画も観れたし、食いたい海鮮丼も食えたし満足したよ。今日は。また、明日学校で」



 誠二先輩は微笑みながらこちらに手を振る。



「はい! また明日学校で!」



 先輩に手を振り返したあたしは、そのまま地下に繋がる階段を下りて行った。