訝しむ目で見つめていると、「なに気難しい顔してんの」と指摘されてしまった。



「あ、いえ。なんでも…ないです」

「何か、変な想像してるならそれは間違いだぞ」

「え」



 核心を突かれ、あたしはつい固まる。



「俺がアイツに気あると思ったでしょ?」



 先輩は、ニヤニヤと笑いながら足を組み直した。



「ち、違うんですか? だって、だって名前で呼べないって言うからてっきり…」

「長いこと呼んでないな、名前で。どうしてかはわからないけど、多分俺の中でアイツの呼び名を考えるのが毎日の日課になってたんだ、きっと」



 先輩は、ははっと短く笑いながらそう言った。



「毎日の日課、ですか」

「うん。もう、呼んだあとの反応が楽しくてさ、やめられなくなってた」

「先輩って、ドSですね」

「うん、知ってる」

「……自分で言わないで下さいよ、先輩」

「だって、本当のことだし」



 先輩はちょっと意地悪な顔を覗かせながら、あたしを遠慮なく見つめた。


 これは、脈ありなのかと考えていいのかどうやらと考えながら、しばらく誠二先輩との雑談は続いた。


 やがて、少し肌寒い風が身体をなぞるように吹き荒れたとき、先輩は立ち上がり、「もう、そろそろ帰ろっか」と切り出した。


 携帯で時刻を確認すると、丁度夕方の一七時になろうとしていた。