「お前って本当に自分勝手だね。人の気も知らないで、自分ばっかり突っ走ってるんじゃねぇよ」

「は? …別に突っ走ってなんかいないし。あんた最近変。おかしいんじゃない?」



 あんたの気持ちなんて知らないよ、と言いそうになったけれど、何とか抑えた。



「おかしくて結構」



 な、なに!?



「もう勝手にしてくれ」

「…何なの、その開き直りは。もうほんっとイヤだ。牧原なんて、大っ嫌い!! もう知らないから!!」



 あー、何やってんだ。

 あたし。

 これじゃあ、子どもみたいなセリフじゃん。



 あたしが氷のように睨むと、牧原は目を逸らした。そして、見る見るうちに哀しい表情に変わっていく。少し言い過ぎたかも知れない。でも謝る気にはなれなかった。



「……」



 一人で突っ走ってるのは、牧原の方だよ…。



「あたし、帰る。麗美達にも言っておいて」



 鼻がツンと痛くなるのと同時に、声も震えてきた。牧原に泣いてるところなんて、絶対見られたくない。


 とにかく一人になりたかったあたしは、帰ろうとショルダーバッグを肩に掛け、小さく「お邪魔しました」と言って、リビングから出た。


 玄関でスリッパからパンプスに履き替えているとき、リビングの方から何かがぶつかり合うような激しい音が一瞬聞こえてきたけれど、あたしは構わずそのまま牧原の家を出た。


 最後に、牧原の家を振り返り、涙腺が緩み出して再び涙が頬を伝った。



「何で、…何で、あんなヤツのことで涙なんか…」



 あたしはくるりと方向転換して、駅の方へ歩き出した。