四月の半ばに差し掛かった頃。わたしは廊下の窓から満開になった桜の木を見下ろしていた。


 一週間ほど前まではまだ肌寒かったけれど、最近では少し気温が上がってきて、小さな花が咲いているのを至るところで見れるようになった。そのおかげで、学校の中庭にある桜の木も今は見頃を迎えている。散ってしまった桜は、まるで絨毯のように埋め尽くされていた。



「ねえねえ、何やってんの?」



 席が近いのが運なのか、最近仲良くなった同じクラスの裕子がわたしに話し掛けた。


 裕子と初めて会話を交わしたとき、最初は気の強そうな子だなと思って少し身構えていたけれど、話してみると案外良い子だった。席が近いというのもあって、それがきっかけで、わたしと裕子はたちまち意気投合した。今は彼女と行動を共にすることが多い。



「うーん…なんか思ったよりテストの点数悪くって…落ち込んでた…」



 わたしはテストの答案用紙をチラッと見てからぐるぐると丸め、それを手に持ったまま、窓の額縁に頬杖をついた。



「……あたしもだよ。だってさ、入学してまだそんな経っていないのにいきなりテストって……ないよね」

「……ほんとだよね。前まではあんなに受験勉強頑張ってたのに……」

「少し休ませて欲しいもんだね…」

「……ね」



 わたし達はどちらからともなく深い溜め息をついた。


 窓の外に視線を戻したそのとき、わたしは偶然に萩原くんの後ろ姿を見つける。彼は何をしているわけでもなく、桜の木と木の間のところで佇んでいた。



「――裕子、あれって萩原くんだよね?」



 わたしは裕子にわかるよう、その方角に向かって指を差した。



「あ、ホントだ。萩原じゃん。――ねえ、なんか女の子来たけど」



 その女の子は急に現れた。やや緊張しているようにも見える。彼女はゆっくりと歩を進めながら、萩原くんの方へと近付いていく。



 ……あの子、確か隣のクラスの子だ。



 話したこともなければ、名前も知らないけど、なんとなく顔に見覚えがあった。


 視線を落としながら裕子は言う。



「……これってもしかして告白タイム?」