「兄ちゃん、違うの!」

「まあまあ」



 優希さんは、今にも掴みかかりそうな兄ちゃんの腕を背後から押さえた。



「誠二。別にいじめてるわけじゃなさそうだし、そっとしておこうよ。二人は青春真っ最中なんだから。ね? 麗美ちゃん」



 そう言いながら、優希さんはわたしの方に笑顔を向ける。わたしは頷いて、兄ちゃんに視線を戻した。



「というわけで、いじめじゃないから」



 兄ちゃんは、わたしを一瞥して萩原くんに視線を移した。



「てめえ。もしまたうちの妹泣かせてんの見つけたら、マジで許さねえからな」

「はい。…もうしません」



 …萩原くん…。

 何で反論しないの?

 兄ちゃんにこれだけ言われてるのに、どうして冷静でいられるんだろう。



「誠二。ほら、もういいじゃない」

「兄ちゃん、何で屋上に来たの?」

「それは…」



 兄ちゃんはそれきり黙り込んだ。それを見て、優希さんが代わりに語り始めた。



「さっき、誠二と麗美ちゃんのクラス行ったんだよ。そしたらね、いつも麗美ちゃんと一緒にいるお友達がいて、麗美ちゃんは? って訊いたら、男の子と二人っきりで屋上に居ますよって。それを聞いた誠二がかなり動揺して慌てちゃってね。それで僕もついて来たってわけっ」



 優希さんは朗らかな口調で重ねる。



「いつも意地悪ばっかりするのに、心配するときはめちゃくちゃ心配するんだよね、誠二。あー、…楽しかったなあ。誠二のさっきの顔」



 ――兄ちゃん、わたしのこと本気で心配してたんだ。



 兄ちゃんは、ばつが悪そうな顔をして、「まあ、良かった」と囁いてから視線を逸らした。