5年のつきあいも、終わるときは一瞬だ。自分が耐えられなかったからとはいえ、思う以上にあっさりと、私は独り身に戻った。

はじめのうちは、一人なのだということが寂しかった。休みの日や寝る前に、もうメールや電話をする相手はいないのだと、布団に入るたびに思った。

かといってすぐに誰かを、と思うこともできず、とにかく仕事に打ち込み、友人たちに遊んでもらって、日々を過ごしていた。


数ヶ月たち、そろそろ紅葉の季節かというころ、会社の上司から紅葉狩りに誘われた。彼は私の3つ上で、とても優しい人だった。

仕事でもお世話になっていたし、会社の人たちとのイベントごとでも、皆がたのしめるように細やかな心遣いができる人だと尊敬していたので、お誘いには躊躇いもなくOKした。

いつもと違い、二人きりでの紅葉狩り。予感はあったが、帰り際にやさしくキスされ、告白され、付き合うことになった。


彼の名前は悟といった。
悟は私と付き合えたことをとても喜んでくれて、毎日会社帰りは送ってくれた。

帰りにレストランに行くこともあれば、私の家で晩御飯を食べることもあった。
抱きしめられて、甘い言葉をささやかれ、私を特別扱いしてくれる悟に、私はおちた。

ある日、彼は私を抱きしめながら、感極まったようにこう言ったのだ。

いてくれてありがとう。
志帆がこの世にいてくれることが、嬉しい。

空気のようだ、と元彼に言われた私に、この言葉はとても効果的な麻薬だった。この言葉にすがり、この言葉をまるで世界にただ1つしかない宝石のように大切にした。
彼の温もりと彼の言葉に依存し、私と悟はまるで恋を知ったばかりのティーンエイジャーのように四六時中一緒にいた。

そんな彼が、私とちょっとでも離れるのが嫌だというのは、それほど首をかしげることではなかったかもしれない。