さよならにキスを、想い出にハグを



side ren

その日は快晴。雲一つない澄んだ青空がどこまでも果てなく続いて見えた。横をちらりと窺うと、空を仰ぐ僕と正反対に俯いている彼女。
勿体無い、そう思わず口にした。すると彼女は目をぱちりと大きく見開いてこちらを見上げる。158cmの彼女はいつも背伸びして高いヒールの靴を履いているのに、今日はコンバースのクリーム色のスニーカーを履いていた。180cmちょっとの僕を見上げるとき、彼女は首が痛くなるって言っていた。そんなことを考えていると気づく。僕に近づくために、彼女はハイヒールを好んだのかななんて。
「空。」
一言僕が言うと、彼女は視線を上へ向ける。
自然と口元に浮かんだ皺に安堵した。こういうところが好きだ。彼女の気持ちの表し方。言葉でも行動でもなくて、最初に表情を変えるところ。純新無垢な子どものように、彼女の感情はストレートだ。
きれいな青。そう言った。
ふと俯いたその視界の端っこの彼女の白い手が見えた。小さくて白くて、あまり細くないこれも子どもみたいな手のひら。指先がすこし悴んでいるようだ。そうだったと思い出す。彼女は手袋が嫌いだ。だからこうして2人で歩いている時は、僕の左手と彼女の右手を交えて、僕のコートのポケットの中で手を繋ぐ。でも、今日は出来ない。恋人を終えて5日目。隣を歩いたとしても、彼女の手を繋ぐことへ彼女への意思確認が必要となった。NOと言われることが怖くて、毎日歩いているこの河川敷の十五分のあいだ、白い手に触れることのできない自分が歯がゆかった。