プロローグとして────

「さよなら、」
そう言ったのが自分なのか、自分の中に微かに潜む違う存在のものなのか分からなかった。その時の記憶はあまりない。今でも唯一思い出せるのは、言ってしまった言葉を飲み込むのに必死な自分と、眉尻と目尻を下げて、何も言わない彼の表情だった。
ただ握られた右手は熱くて、あの人の左手は汗ばんでいた。後悔なんてとっくにしてる。ずっと前から。別れを告げた直後から、毎日、後悔の波が押し寄せて眠れなくなるほどに。


side otoha