彼女が転校して来る前に配られた資料。



彼女は日本にとどまらず、世界的に有名なピアニストだ。





その彼女が、こんな平凡な私立高校に転校してきたのには、何か訳があるのだろう。




生徒には、ここの校長兼理事長と彼女の父親が、古くから面識のあることが理由だと知らされていたけど。





本当かどうかは知らない。






「私の父とここの理事長は、古くからの親友なのよ。

と言っても、理事長のほうが遥かに年上だけど。」


『…接点が見当たらないな。
世界を飛び回る有名ピアニストと平凡な私立高校の理事長…。』


「フフ、でしょうね。」



彼女は悪戯っぽい笑顔を向けた。



「実は、ここの理事長と私の母は兄妹なのよ。」

『えぇ!?』


「そして母と父は幼馴染み。
父が世界を飛び回るようになったのは、父が中学生になったあたりからだから。」


『なるほど。』


納得。




「………ねぇ、

どうしてピアノ辞めちゃったの?」


『え…?』



彼女が僕を見つめる瞳は、とても穏やかだった。

さっきまで、よく見せた哀しい瞳が嘘のようだ。


「ねぇ、ピアノ…好き?」


『…』





僕は、ピアノ…好き…なのかな?


確かに、たまに弾きたいとは思う。


けど、僕は……













『……僕、




ピアノを弾くのが怖いんだ。』
















僕は、すっかり今が文化祭中だということも、友達に呼ばれてたことも忘れていた。