“少し、話をしよう”






そう言った亨さんと、ロビーへ降りた。







冬の夕方だからか、もう人はまばらだった。








適当な椅子に座ると、亨さんが口を開いた。













「音羽には…母親がいないんだ。」








『……なんとなく、そうかな、とは思ってました。』






音羽から、母親の話は聞いたことがなかったし、

日本に実家がありながら、帰化することなくヨーロッパの日本人学校から入学したのは多分、亨さんが娘をそばに置いておきたかったからだろう。




亨さんには、家政婦みたいな人を雇うだけの余裕はあっただろうし。






「音羽は本当に母親にそっくりで…

アイツが死んだ後、アイツの両親が音羽を日本で育ててくださるっておっしゃったのに、断ってしまったのは…

私が心細かったからだと今は思う。」








亨さんは、寂しさの滲んだ表情で語っていた。