だって、悔しいよ。
晴登くんの気持ちを考えたら悲しいよ。頭ごなしに反対するんじゃなくて、ちゃんと聞いて欲しいよ。それから酷いことを言って悪かったと謝って欲しいよ。
全身の血がドクドク煮立って、抑えきれない怒りが頭から吹きあがる。自分の中にこんな激しい感情があるなんて知らなかった。
知らなかったけど、今はどうでもいい。
宮司さんがいる本殿へと大股で進む私の手を、晴登くんが後ろから掴んだ。
「芙海、やめぇ、いいんや」
「よくない」
「芙海が言ったところで、どうにかなる問題やないって」
「それでも言わなきゃ。晴登くんは中途半端な気持ちなんかじゃないもん、ちゃんと将来のことを、」
「もぉ、いい加減にしてくれや!」
晴登くん……?
空気を切り裂くような怒号が響き、乱暴に解かれた手首がじんじん痛んだ。
「父さんの言ってることは間違いじゃねぇ。俺は今もずっと中途半端な奴で、口で言うほど大した奴やないんや」
「中途半端って何が? 私の知ってる晴登くんはそんな人なんかじゃないよ」
「私の知ってるって何だよ、俺の何を知ってるんだ? 何にも知らんくせに首突っ込むのはやめてくれ」
ザクザクザクっと何かが千切れるような音がすると思ったら、砂の上を歩く草履の音だった。
晴登くんの背中がどんどん遠くなる。
