難しい問題だけど、宮司さんも晴登くんの気持ちを聞いてくれたらきっと考えを軟化してくれるはず。

根拠はないけど、”大丈夫だよ”って。

そう励ましたかったけど、先に晴登くんの苦しそうな声が私の耳に届いた。


「父さんな、俺に神社を継いで欲しくないんやと」

「え?」

「どこでもいいから大学に行って普通の仕事に就いて欲しいって言われた」

「そんな、どうして?」

「さぁ、知らん」

「でも、晴登くんが継がなかったら神社は、」

「知らんって、俺も!」


不意に声を荒げられ、ビクッとする。

すぐさま我に返った様子の晴登くんは「ごめん」掠れた声で言い、再び膝にオデコを付けて顔を伏せた。私はその背中をさする。

晴登くんがどれくらいの覚悟を持って神社を継ぐと言っているのかは分からないけど、家の手伝いを率先してやっている姿は何度も目にしている。

境内の掃除も、地域のボランティアも、神楽の練習だって一生懸命やってきたのに。宮司さんの体のことだって心配して自分に出来ることを考え悩んでいるというのに、継がなくていいなんてどうしてそんな酷いことが言えるの?

普通なら、喜ぶところじゃないの? 誇りに思うところだよ!

頭にカァッと血が上った私はその場に立ち上がった。


「私、宮司さんに言ってくる」