でも、何から話そう。

日はさらに落ちていて真っ赤に燃えそうな太陽が海の向こうへ飛び込もうとしているところ。見上げた空にはせっかちな星が早くも浮かんでいる。

話をまとめるのは得意じゃないから、順を追って話すことにした。


「私ね、カケルくんくらいの歳の頃からバレエを習っていたんだ」

「バレー?」

「踊る方のバレエ。クラシックバレエ」

「あぁ、そっちか。言われてみればそんな感じするなぁ。だから芙海は神楽を見るのが好きなんやな、ジャンルは違うけど同じ舞やしな」

「うん。神楽もバレエも大好き。だけど、バレエはいつの間にか出来なくなっちゃったの」

「足の怪我が原因か?」

「それもあるけど……」


尻すぼみ声が小さくなる自分に、えいっと気合を入れる。

この胸の中に芽生えた”何か”を光り続けさせるためにも、まずは自分自身と向き合わないといけない。


「これでも私、始めた頃は天才児現る!なんて言われちゃってすごく期待されていたんだ。コンクールで優勝したこともあるんだよ」

「おお! すごいな」

「でも、上手かったのはその時だけ。だんだん周りと同じになって、周りより下手くそになって。そんな時なんだ、膝の怪我をしたのは。みんなは励ましてくれたけど、私は怪我をして良かったと思ってた。やっとバレエを辞めれるって」

「芙海……」


膝の状況はそれほど悪いものじゃなかった。

手術をしてリハビリをすれば1年ほど復帰できると言われていた。けれど、私はリハビリが終わったあともバレエシューズを履くことなく、逃げたんだ。

バレエを辞めてしまえば、コンクールで負け続けることもない。

ライバルたちに嫉妬することもないし、悔しい思いもしなくていい。これからは自分の好きなことをすれば良いんだ……って、そう思ったのに。

私の好きなものなんて、バレエ以外に無かったんだ。