ビニール袋いっぱいに集めたどんぐりを持って、カケルくんのお母さんが入院する病院に着いた時には、もう夕方の6時を回っていた。

正面入り口の自動ドアを通って中に入っていくカケルくんの姿を見送る。途中、彼は1度だけこちらを振り返って、大きく手を振った。

お母さんとの約束を守るため、お母さんと赤ちゃんの無事を願うため、必死にどんぐりを集めたその姿は誇らく輝いて見える。

カケルくんとの出会いは、臆病になっていた私の心を大きく揺らしてくれるものだった。


「”どんぐり姫の願い事”だっけ、絵本のタイトル」

「うん。これで、カケルの母ちゃんは、きっと無事に赤ちゃんを産めるな」

「そうだね」

「芙海の願い事もやで。やっと1つ見つけたな」


優しく微笑んだ晴登くんは、私の手元を指さした。

そこには青い色をしたミケジャリのお花。探していた時は全然見つからなかったのに、どんぐりを集めをしている途中で出てきてくれるとは、なんとも照れ屋なお花だ。


「晴登くん、私ね」

「うん?」


胸に、ぽわんと浮かんだ光。

その正体はまだ何か分からないけど、私の中の何かを変えてくれそうな気がする。その光が消えてしまわぬよう誰かに話したい。

口に出すなら、晴登くんに聞いて欲しい。

晴登くんは察してくれたようで、「歩きながら話そうか」と私に言い、来た道を戻り始めた。