「ハンバーグの付け合わせは、ツルムラサキね」

「ん! これ好き」

「美味しいわよね。でも、向こう(東京)じゃ、たまにしか売ってないのよ」

「そういえば、お母さん庭で栽培してなかった?」

「してたけど、すぐダメになっちゃったの」

「そうなんだ、残念」


ネバネバ野菜の代表としてオクラやモロヘイヤがあるけど、それらは葉や茎にトゲトゲがあって口当たりが悪い。その点、ツルムラサキは食感もいいし栄養満点、ガン予防にも効果があるんだ。

そんなツルムラサキをお湯にくぐらせて、お浸しにする用意していると、お母さんが思い出したように口を開いた。


「残念といえばね、お隣の風子ちゃんっているじゃない?」

「優芽のお姉ちゃん?」

「そうそう」


何の話かと思えば、風子ちゃんのこと。

優芽によると今は遠くに行っているらしいけど、島1番の美人とあって噂はいつも耳にしていた。もちろん、どれもいい噂ばかりで、大人たちの口癖は、「風子ちゃんを見習いなさい」だ。

そんな風子ちゃんが、残念っていうのは……?

お母さんはお隣を気にするように、小声で話を続けた。


「入院しているらしいの」

「え、」

「びっくりでしょ、それも精神科なんだって」

「精神科!?」


思わず大きな声が出て、お母さんに口元を押さえられた。反射的にお隣さん側にある窓を見る。心臓がバクバクいっている。

しっーと人差し指を唇に当てたお母さんは、


「あんなに綺麗で頭も良い子だったのに学校も休んでいるっていうから残念よね。あ、でもこのこと、優芽ちゃんに聞いちゃダメよ。言いたくないこともあるでしょうからね」


そう私に釘を刺し、料理の続きに取り掛かった。