優芽はドアに背を向けていたため、輝くんの存在に気が付いてなかった。私が指をさして振り返り、領得したように「ああ」と頷く。

優芽と同じように午前中の神楽の練習に参加していた輝くんは、家に戻って着替えたらしく青いボーダーのTシャツとハーフパンツというラフな格好をしていた。

男の子らしくサイドを短く刈りあげた髪型と小麦色に焼けた肌がよく似合っている。


「こんにちは」

「……お」

「えっと、輝くんも調べもの?」


”も” と言ったのには理由があって、ここの図書館には島に関する資料や歴史本、図鑑といったものしか置いていない。

すなわち、読書を楽しむような文庫本の類は一切ないのだ。尤も、資料や図鑑が愛読書だというなら別だけど。


「いや、帰るわ」

「え?」


あれ、行っちゃった。

文字通りUターンをして図書室を出ていく輝くんの姿を目で追いながら首を傾げる。まるで、私たちと出くわしたことがまずかったような態度だ。 

「どうしちゃったんだろうね?」と目の前にいる優芽に同意を求めると、彼女は外国人のように肩をすくめ両手の平を上に向けた。