「優芽は、夏休みの宿題とかないの?」

「ねぇよ、夏は祭りの準備で忙しいし家業を手伝う奴も多いから宿題どころじゃねぇ」

「なるほど」


神起祭は海、山、川、空、大地、森、泉を割って神々が起きたという伝説が元となり行われる祭りで、毎年8月の25、26日に行われるらしい。

その日に向けて準備は6月から始まっており、8月に入った今は島の至るところで提灯や竹灯篭などが並べられている。

そんな島全体の一大行事と呼ばれる夏祭りだけあって、学校の先生たちも配慮してくれるらしい。


「なんかいいね、そういうの」

「なにかって何がだ?」

「良い島だなぁーって」


歴史があって、受け継ぐものがあって、人々の繋がりがあって。

おばぁちゃんが大好きだったこの島は、老若男女すべての人の笑顔と温かさに溢れた楽園なんだと、今まさに読んでいる本からも伝わってくる。

個人主義の都会に住んでいるから、そう思うのかな。


「芙海もずっとこっちに住めばいいのに」

「いつかね、そうなればいいな」

「なればいいなじゃのーて、そうしろって」

「うん、だね」


頷くと、机の上に頬杖を付いている優芽がニカッと笑う。

若者離れが深刻化してる離島が増える中、神起島の人間はそのまま離れず一生涯を島で過ごす人も多いらしい。

優芽は当然、島に残るんだろうなぁーと思いながら、何となく視線をドアの方に向けたまさにその時、中に入ってくる人が目についた。

目が合って、思わず会釈をする。


「ん、どした?」

「ほら、あの」