三笠のおばさんというのは、おばぁちゃんの妹の嫁ぎ先の娘という限りなく遠い親戚の人で、うちのお母さんよりも10歳ほど年上だったような。

お茶とお花が趣味だという上品な人で、いつもニコニコしている印象がある。


「暇だし、いいよ」

「お願いね」


お母さんが届けて欲しいと言ったのは、おばぁちゃんの着物だった。

紙の袋の上から風呂敷に包まれたそれは、ずっしりとした重さがある。おそろく3着以上は入っているんじゃないかな。持ち上げると箪笥の匂いがふわっと香った。

それと同時におばぁちゃんの香りも仄かにする。

遺品整理とは、つまり要らないものを処分することで、使えそうなものや思い入れのあるものなんかは形見分けとして必要な人に回される。

家の中からどんどん消えていくおばぁちゃんの気配に寂しく思いながら、三笠のおばさんのところに向かった。




「こんにちは」

「あれぇ、芙海ちゃんいらっしゃい」

「あの、これ、お母さんがおばさんにって」

「まぁハナさんの着物ね、重かったでしょう。ありがとぉ」



玄関先で迎えてくれた三笠のおばさんは、「どうぞ中に入って」と招き入れてくれた。当然断る理由もないので、お言葉に甘える。

おばぁちゃん家と同じように屋根瓦のある古い日本家屋は冷房を入れてなくても風が通り抜けることで涼しく、湿気を感じない。

程よく生活感のある室内はすっきり片付いており、あちらこちらに飾られたお花が可愛らしく彩っている。

奥の部屋に行くと、縁側のところでおじさんが新聞を広げていた。