楽しかった。

切ない想いもしたけど、晴登くんに出会えて良かった。

神起島に来て良かった。

きっとこの夏の出来事は、一生忘れないと思う。


「晴登くん、色々とありがとうね。あとね、昨日の神楽、本当にカッコよかったよ。私、圧倒されてしまって、」

「――――俺」


突然、私の話を遮った晴登くんは真剣な瞳をこちらに向けた。

焦げるような夏の日差しよりもずっと熱い視線が、私に突き刺さってる。


「高校を出たら、東京の大学に行くことにした」

「宮司さんと話し合ったんだね」

「そこで神職の資格を取って、またここに戻って来る。その時、芙海も一緒に連れて帰りたい」

「……え」

「俺、芙海のことが好きだ」


風が吹いて、晴登くんの前髪が揺れた。

窺うような視線、アーモンド形の綺麗な瞳がこちらを向いている。

私をその瞳を見つめ返しながら、何も言えず思考が停止した。


「芙海? 聞いてる? なんか言ってや」

「……うん、あ、えっとでも、晴登くんは、風子ちゃんのことが」

「風子な、退院が近いらしいで。輝が毎朝、花を届けに行っていたお陰やな」

「お花? あ、風子ちゃんの病室に花を届けていたっていう?」

「そうや、よく知ってるな」

「……おばさんから聞いて」


お花を届けていたのは、晴登くんじゃなかったんだ……。

え、でも特別な存在だって聞いたけど、あれ、私、もしかして、

ブッブーとクラクションの音がした。

早く乗りなさいというお母さんのジェスチャーに、頷いて答える。思考の整理がつかないまま車のドアノブを引こうとした私の腕を晴登くんが掴んだ。


「芙海、行く前に聞かせて。俺のことどう思ってる?」


再び目が合って、ドキドキした。

どう思っているって、そんなの、そんなの。


「……好き、私も晴登くんのことが好き」