「笑うな。なんかムカつくから」

「あ、ごめん。でもよかったね。髪が生えてきて」

「本当だよ。この歳で頭皮の心配とかあり得ない。でも週一で知らない先生から指導くるし、やっぱり染めないといけないのかなって思ってたから……めちゃめちゃ嬉しかった」

覚えてないけど、よかったね。

そうしているうちに、降りる駅が近づいてきた。

「あ。私はここだから」

「ああ。俺もだ。一緒の駅なんだな」

それも初耳だ。

「一緒になったことないよね?」

「駅ひとつだし、俺は、電車にあまり乗らないし。乗ったとしても、バスケ部は朝練で早いし、帰りは暗い時間だから」

ああ。今日の私は図書委員会で遅かったし、宮野はバスケ部をサボったからね。

電車をおりると改札を抜け、ザーザーと降りしきる雨に宮野が顔をしかめた。

さっきより雨がひどくなっている。


「コンビニで傘買うかなぁ……」

ボヤく宮野に苦笑してしまった。

この冷たい雨の中、私も傘もなく帰れとは言いにくいよ。

「家、どっち? コンビニまで、入れていってあげようか?」

「ここからなら、スーパーの方角」

「なら方向は一緒だね。ふたりで入るには小さい傘かもしれないけど、ずぶ濡れになるよりマシでしょ」

笑いながら傘を差し掛けると、じっと私を見下ろした宮野はどこか真面目な表情をした。

「ありがとう。俺が傘を持つよ」

「うん。ありがとう」

そして土砂降りの中、ふたり並んで歩きだした。