療養所へ着くと、若い看護師が俺を出迎えてくれた。
彼女はニコリと笑みを浮かべて挨拶する。


「花谷香苗です。よろしくね、葉月くん。」


差し出した手を、俺は拒んだ。
花谷という看護師は、少し傷ついたような表情をしたが、すぐに笑顔に戻り、めげずに俺に話しかけてくる。


「ごめんなさい。人見知りなのかな?」


尚も返事を返さない俺に痺れを切らし、母が花谷に頭を下げる。


「ごめんなさいね。この子、小さい頃から病院暮らしだから、人付き合いに慣れてなくて…。」

「いいんですよ。私もなにも考えず、申し訳ありません。」


花谷は柔らかい笑顔と言葉遣いで母を宥めると、もう一度俺の方を見た。


「それじゃあ、病室に案内しますね。」


その時だった。
どこからか、視線のような誰かに見られている気がした。
辺りを見渡すが、周りにはそれらしい人影はない。


「倉持さん?」


花谷が後ろを振り返りながら、不思議そうに俺を見ていた。
俺は黙って花谷の後ろへついていった。