「見えてきたわよ、葉月。」 母の声が車内に響く。 フロントガラスへ身を乗り出すと、遠くで小さく「水無月療養所」と書いてある看板が見えた。 「危ないから、座りなさい」と母に言われ、渋々席に腰かける。すると、その療養所のすぐ隣に小さな湖があるのが見える。 湖はキラキラと陽の光を反射して光っていた。 「あの湖、月城湖っていうらしいわよ。」 自慢気に話す母には目もくれず、俺は湖をじっと眺めていた。