そんなある日のこと、お母様に呼ばれたので急いでお母様の部屋に向かった。



ノックをして部屋に入るとお母様が窓の前に立って景色を見ていた。



「お母様、急に私を呼び出してどうしたの?」


と尋ねてみると、



「アリス、貴女には話さなくては行けないことがあるのよ」


とお母様は窓から私の方に視線を向け真剣な顔をして私を見ていた。



お母様が真剣な顔をすることはほとんど無かったため、



何か大変なことが起きているのだと思い、



「どうしたの?誰か病気でもしたの!?」


と私があたふたしていると、



「安心なさい。誰も病気はしていないわよ。

ただ、貴女に関することね」


とお母様は冷静な態度で言った。



「私に関すること?」


と私が頭に『?』を付けていると、



「アリス、貴女には許嫁がいます」


とお母様は窓の前からこちらに移動してきて私の前に止まり、



私を真っ直ぐに見つめながら言った。



「私に...許嫁...が...?」


最初は聞き間違いなのではないかと耳を疑ってもう一度聞いてみることにした。



「お母様、私に本当に許嫁がいらっしゃるんですか?」


「はい。今まで言ってませんでしたもんね」



どうやら本当のことだったらしい。



私の許嫁さんは可哀想だ。



こんな何の変哲もない、



ましてや女子力とやらの欠片もない女が許嫁なのだから。



しかし、急すぎるのではないか?



何故、今頃に許嫁の話が出てくるのだ?



もう少し後でも良いのではないのか?



と疑問に思ったので聞いてみることにした。


「お母様、急すぎるのではないでしょうか?」


「そうですね。ですが、貴女にはこれから花嫁修業をして欲しいので」


「お母様、私は見ず知らずの方とお付き合いもしていないのにいきなり結婚は出来ませんし、しません!!」



と踵を返そうとしたとき、


「アリスなら、そう言うと思ったわ」



とお母様は机に向かい、

机の引き出しから何やら手紙のようなものを持ってきた。



「アリス、今からこの手紙を持って隣国の騎士となってもらいます」


「隣国の騎士に...ですか?」


「はい。この国ではあなたの顔は知られていますからね。」


「でもどうしていきなり隣国の騎士なのですか?

この国の騎士としてはダメなのですか?」



私はどうしてこの国の騎士ではなく、



隣国の騎士にならなければいけないのか、



頭が回らなかった。



確かに、



国民には顔が知られているからかもしれないが、

変装でどうにかバレないはずなのでは?


と悩んでいると、


「いいえ、ダメではないのだけれど...」

「ならどうして!?」


さっぱり意味が分からないから。



悩みすぎて、次第に頭痛も酷くなる。



すると、


「先ほどの話に戻すわね」


とお母様が冷静な声で言った。