「…家族想いで、優しい人じゃないですか?」

カワイイとは、口に出して言えなかった健吾。

「…そうなんですけどね。結婚した頃までは、女だったんですけどね…今、あの身なりですよ。完璧女捨ててますよね」

そう言って溜め息をついた和也は、酒をあおった。

…健吾は、正直、和也の言葉に、カチンと来ていた。

和也と華は、恋愛結婚だろう。結婚して、子供を産んで、体型に変化はあっただろうし、家事や育児に追われ、身なりも気にすることができなくなったんだろう。

結婚すれば、お互いの本質が見えるし、一緒にいることも当たり前になる。

でも、それを全部ひっくるめても、妻を愛し抜くもんじゃないのか?

健吾は、結婚し、子供を産み、包容力に溢れた、可愛らしい華が好きだ。

「…そうか、好きなんだ」
「…え?」

「…いえ、何でもありません。あの、でも、奥さんの事好きなんですよね?」

「…好き?…どうなんですかね。家族としか思えなくなった今、好きかと聞かれるのは愚問ですね」

「…」


和也が好きだと言ってくれたら、まだ、引き返せたかもしれない。

なのに、華への酷い暴言に、健吾の心は決まってしまった。

『華を、奪いたい…いや、必ず奪う』

と。

和也と別れ、一人夜道を歩きながら、健吾は華にメールを打った。

『こんばんは。正樹君の試合は何時ですか?必ず行くので、お返事下さい 健吾』



…その何気ないメールに、華が胸をときめかせた事など、今の健吾には、まだわからなかった。