―――
――――――
―――――――――


あの時百合子は、怯えていました。

目の前の光景が、俄かに信じられませんでした。



墓前にそえられた花――…

その花は、百合子がさっき生けたものです。

百合子は頬にすうっと涙を流し、小さい、消え入りそうな声で呟きました。











「お姉ちゃん……」









あの10月31日の事故から二ヶ月、経っていました。
あれから小学校には沢山の警察や記者が来て、すぐに居なくなりました。

もう、鞠子のあの事故は、人々の頭の中から消え去ったのでしょう。



新聞やニュースでは、こう伝えられました。


『10月31日午後七時八分、〇〇県〇〇市にある小学校で、帰宅が遅くなった妹を迎えに来た長谷川 鞠子さん(22)が、玄関ホールにある階段を踏み外し転落しました。発見当時重傷で、搬送された病院で、40分後に息を引き取りました』

『目撃者である妹さんの話では、はじめ、黒猫も会話している様だったということです。妹さんが長谷川さんに話し掛けた後も、長谷川さんは黒猫にいくつか言葉をかけ、そしていきなり、近くの傘立てから取った傘で黒猫を打ち殺し、尚も何かを追い掛ける様に走り出し、足を踏み外して階段から転落したとのことです』

『動物虐待――』『“猫に話し掛けてた”ということで薬物服用の疑いが――』『――近所の方々の話によると――――』……………。





.