【完】DROP(ドロップ)




雫の腕を掴んでいた男の手の少し下を、横から掴んだ。

体をビクッとさせた雫は、俺が近づいていた事に全く気付いてなかったんだろうね。



そんなに、この男しか見えてなかった?

近づく俺なんて気にも留めてなかった?



雫の視線が下から、ゆっくりと上に上がってくる。

やっと、合った目は大きく見開き、少し開いた唇から



「け……いし?」



小さく呟かれた一言。


そんな雫を見下ろした俺は無表情で尋ねた。



「何してんの?」



見開いた目が、月の光でどんどん輝く。


泣いているんだ。


どうして泣くの?
どうして……。



「雫、知り合い?」



男が声をかけると、そっちを向きボロボロと涙を零した。



「え!? どうしたんだよ?」



驚く相手に首を振るだけ。


ねぇ、その涙は何の涙なの?


俺に悪いって思って流した涙。

その男に悪いって思って流した涙。

その男に、俺が居たってバレた事の涙かな。