「あ、KEIさん居た。そろそろ始めるんで戻ってもらえますか?」
開けっ放しにしていた楽屋のドアから顔を覗かせたスタッフが、俺に声をかける。
うん、と頷いてみせる。
「あ、俺そろそろ戻らなきゃ駄目だ」
《そっか。圭矢、仕事頑張って…》
少し寂しそうな声が、また雫に会いたくなる。
そのまま、雫の言葉を待っていた俺の耳にもハッキリと。
《おい、雫。菜摘さんが呼んでんぞ》
聞こえたんだ。
頭が真っ白になった。
聞き間違えなんかじゃない。
男の声で。
“雫”
って呼んだよね。
《あ、あたしも呼ばれてるや。じゃあね、圭矢っ》
「あ……雫」
《え?》
切ろうとする雫を慌てて呼び止め、
『今の誰?』
そう聞きたかった。

