「話し合いのとき、壷井さんのこと庇ったでしょ。わたし、ちょっと壷井さんに嫉妬しちゃった。なんで助けるんだろうって。あんな、なんの努力もしてない子」

なんの努力もしてない子。
七瀬さんにはそう見えているんだろうか。

「壷井さんが努力してないって、なんで思うわけ」

「してないじゃん。化粧もしない、ヘアアレンジもしない、グループにも入らない、ニコニコもしないで、ひとりでいても平気ですって顔して。たまたまいじめられてないってだけじゃない」

「何それ」

「だって、そうでしょ?水嶋君だって、壷井さんに同情してるだけじゃない。努力もしないで同情されて優しくされるなんてずるいよ」

七瀬さんは本心で言っているようだった。
俺は七瀬さんの言い分が理解できなくて、ちょっと七瀬さんが可哀想になった。

「俺は壷井さんに同情なんてしてないよ。優しくしたつもりもないし。ただ手伝いたいから手伝っただけ。それに壷井さんは同情されて喜ぶほど、弱くないと思う」

俺が言うと、七瀬さんは悲しそうな顔をした。

「頑張ってみんなに好かれても、好かれたい人に好かれないって、なんかみじめ」

「俺は七瀬さんが嫌いだなんて言ってないよ。ただ、理解できないってだけ」

自信に満ち溢れていた七瀬さんの表情がこわばって、七瀬さんが立ち止まる。

「わかった。じゃあわたしと友達になろ」

いきなりそんなことを言った七瀬さんは、ちょっと吹っ切れたような顔をしていた。

「あ、まだ友達になってなかったんだな、俺ら」

七瀬さんが、ちょっとだけ笑った。初めて、なんか違うって思わない七瀬さんの笑顔が見られたような気がする。