遅かった…。やはり遅かったのだ。

あの男に汚され壊された魂で力なく微笑む

少女への救いをレイは持ち合わせていな

かった。この手に握った剣でレイはこの少女

エラに何が出来るのか…。

朝焼けを浴びて光る剣を少女の胸に向けて

突き立てた。好いてもない男に汚されたこの

少女に生き恥を晒させることが自分にとっ

て辛く耐え難いものだった。

それがたとえ許されないことでも誰から見

ても自己満足というものでもレイはもぅ自

分の心を守るために少女を殺すこと以外に

方法が思いつかなかった。

「あ…ぁ…ありがとう…」

「屋敷のものはすべて殺した…。弱い俺を許

してくれ…」

「……………わ…たし…はエラ…お…母

様…に…もらっ…た大切な…名前」

「俺はレイ。誰かがつけた名前だ。」

「……レ…ィ…ほんとうに…あ…りがと…

う…」

その言葉を最後にエラは事切れた。

朝日を受けて横たわるえらのその姿をレイ

はやはり美しいと思った。

救いたいと願って剣までもを振り回した少

女を手にかけたというにも関わらず涙も出

なかった。ただ腹が減ったと思った。

その部屋のバルコニーへ出て朝焼けを見上

げた。

泣かなかった。腹が減ったと思った。

でも何時間も剣を握り人を切った手にも救

いたいと願った少女を切った心も確かに痛

んでいた。

朝日が登り着る前にレイはエラに服を着せ

抱えて屋敷を出た。

目指した先は海だった。町外れの海に向かっ

て駆け抜けた。

日が高くなる頃、たどり着いた海は日差しを

浴びてキラキラと光っていたがやはりレイ

にはこの少女が一番美しく思えた。

持っていたロープでエラと体を縛り抱きし

めた。

刹那、突風も思える風が二人に向けて駆け

抜けてきた。


ザバアァァァァアアアン!!

波の打ち付ける音の中に紛れドボン!!とい

う微かな音がした。

崖の上に二人の姿はない。やっと本物の自由

をレイもエラも手に入れた。

お話はここで終わり

ある時代のある場所の物語。