そんな私の曖昧な心境を知ってか知らずか、柴崎くんはずっと優しい眼差しで私のことを見つめてた。


見つめながら、優しく微笑んでくれていた。

彼の柔和な微笑みを見ると、安心するのは何故だろう。

今までの荒れていた心が柴崎くん自身によって癒されていく気がする。

それは、今まで彼に対して一度も抱いたことのない感情で・・・

不思議な安心感に包まれていると、彼が今までよりも笑みを深くして笑った。

どうしたのだろうと思い、首を傾げると彼の右手が私の左頬から離れていった。


なぜだか、彼の温もりがなくなることを寂しく思ってしまった・・・

柴崎くんはそんな私の想いには気づかないようで、
「いろいろとごめんな。それと、ありがとう。」
とよく分からないことを言う。

「ごめんな。」が指しているのはきっと、さっきの食堂でのこと。

でも、散々彼から逃げて、彼に対して怒っていた私が「ありがとう。」と言われる理由が見当たらなくて、考え込んでしまう。


私の疑問が伝わったのか、彼は笑顔で説明してくれた。

「俺、この後、ちょっと気難しい担当さんがいる会社に営業しに行くんだ。

大きな契約になるし、絶対その会社から契約取りたくて、でもなかなか思うようには話が進まなくて・・・ちょっと困ってたんだ。

どうしたら、うちの会社の製品を使ってもらえるんだろうって・・・

でも、花奈のおかげで元気でた。交渉、上手くいく気がしてきた。」

私なんかで力になれたとは思えないけど、彼の笑顔からは素直な感謝の気持ちが伝わってきた。

だから、「どういたしまして。」と私も素直に言うことができた。



彼の食堂での行動に怒っていた私はもういない。

それよりも営業部のエースである柴崎くんの仕事の役に少しでも立てたという事実が私を心から笑顔にさせていた。



自分でも気分屋だなと思う。

実際、昼休みの間のこの気分の高低差には自分自身でも驚いている。


でも、私の心をいとも容易く操ることが出来るのはきっと柴崎くんだから・・・

いつの間にか私の中で柴崎くんの存在が大きくなってきている気がした。