柴崎くんのせいでささくれだった心がオムライスの美味しさで癒されていく。

彼が特に話しかけてくる様子もなかったのでオムライスを口に運びながら、ついつい顔が綻んでいく。


私はオムライスが大好きだ。

特に食堂のオムライスは卵のトロトロ加減が絶妙で、嫌なことがあったり、疲れている時はついつい頼んでしまう。

同期たちの会話を聞きながら、食事を進めていると、隣から視線を感じた。

柴崎くんに見られてる気がする・・・。

彼の視線を意識すると、居心地が悪くなってきて、不満げに柴崎くんを見てしまった。

彼は相変わらず私のことを見ていて、なぜ見られてるのか気になってしまう。


意を決して、理由を聞こうとしたら、彼の腕が私の方に伸びてきて・・・

気づいた時には私の口元を彼が親指で拭っていた。



「ケチャップ、付いてたよ。」と笑顔で言い、彼は親指についたケチャップを自身の口元に運び舐めた。

彼が親指を舐める仕草は真昼間だというのにとても妖艶で・・・

思わず見とれてしまった。

我に返ると、同期が目の前にいたことやお昼時で食堂がそれなりに賑わっていたことを思い出して赤面してしまう。

恥ずかしくて俯いていると、一花が「わぁ・・・」と驚きと感嘆の混じったため息を漏らしたのが聞こえてきた。

仲のいい同期にも見られてしまったかと思うと、恥ずかしすぎて前を見ることが出来ない。

私は早くこの場から去りたくて、残りのオムライスを黙々と急いで食べた。


大好きなオムライスの味も急に味気なく感じてしまう。

それもこれも、人目をはばからずにあんなことをしてきた柴崎くんのせいだ。

彼は一体、何がしたいのだろう。

私を困らせて楽しんでるのかな・・・

もっと紳士みたいな人だと思ってたけど、それは私の勘違いだったとその時、初めて知った。