鬼神となりて

「東間五朗…」

春翠は呟くように繰り返した。

男は隣にいる雪乃に視線を送る。

「なんだ。子守り中か?」

小馬鹿にしたように笑った。

自分の事だとわかった雪乃は顔を赤くして怒る。

「なんですって!?
これでも私は20よ!!」

「キーキーと五月蝿い女だ。
どこで拾った、こんなやつ」

雪乃を気にする事もなく春翠に尋ねた。

「そこで出会ったばかりだよ。
それより、よく今まで騙せてたな。
顔ぐらい割れてただろ」


雪乃はなんの事だと言わんばかりの顔をする。

「ふっ、まぁな。
その辺は綺麗に納めたさ」

そう言って腰に挿している刀を撫でた。

雪乃は目を見開く。

今まで気づいていなかったが、廃刀令が出されているこの御時世、抜刀を許可されているのはほんの一握りである。

もちろん、それなりの地位でなければ持つことはできない。

つまり、東間五朗と言う男は雪乃が思っている以上に上の人物である。

「……。
腕を買われたのか」

「そんなところだ」

春翠は目を細める。

「元新撰組、副長。土方歳三…」

春翠がそう呟いた。

もちろん、雪乃はパニック状態である。

「土方歳三!?
それって…ええ!?」

「昔と比べて姿は少々かわって居るけど、あの目……、絶対に忘れない」

春翠は土方から目を逸らさずに雪乃に告げた。

「久しいな。その名で呼ばれるのは」

「他の奴等はどうした」

「知らん。全員散った。今どこで何してるかは知らねぇよ」

土方は、春翠に近づいた。

「それより、お前だろ。盗人を切ったのは」

「え!?春翠が?」

「……」

春翠は土方を見つめる。

「ああ。そうだ」

「やはりな」

「俺を逮捕するか?」

「いや。一応お前は誰も殺してねぇからな」

春翠は少し土方を睨む。

それに気が付いたのか土方は面白そうに笑った。