鬼神となりて

 一方その頃春翠は、街をフラフラと歩いていた。

色々な店から客を呼ぶ声がする。

雨上がりだからか蒸し暑い空気だ。

しばらく歩いて民家が建ち並ぶ通りに出る。

様々な形の門がどっしりと構えており、時折剣術の道場も見掛けた。

なにも考えずに歩いていると、突然門が開き凄まじい勢いで何かがぶつかってきた。

その反動で春翠は少し飛ばされ、相手は尻餅を着いた。

「あたた…。大丈夫ですか?」

春翠は腹を撫でながら尋ねた。

ぶつかってきた相手はおなごのようだ。

大きな風呂敷を持っている。

「ご、ごめんっ」

すぐに立ち上がると、頭を下げた。

「俺もボーッとしてて…怪我はない?」

「大丈夫!」

元気よく頷くと、笑顔になった。

「あ、そうだ。早くここから出ないと…」

そう言い、出てきた家を見上げる。

春翠は不思議に思い、視線を追った。

「……私、今家から追い出されたんだ。
行く宛なんかどこにもないけど」

何かあったようだ。

だが、春翠はあくまでただの他人である。

そこまで問う必要もない。

春翠は悲しそうな目で家を見つめる彼女を横目で見た。