鬼神となりて

 「ここにお金置いておきます」

身仕度を済ませた男は金を座っていた場所に置いた。

「あいよ、毎度あり」

男は最後にもう一度老女に微笑むと爪先を外へ向けた。

「あ、お兄さん」

何かを思い出したように老女が呼び止めた。

男は振り返る。

「どうしました?」

「最近鬼が出るらしいから、気を付けてね」

鬼、その言葉に眉が少し動いた。

「わかりました。ありがとうございます」

男は雨上がりの土の匂いが漂う中、次の街へと向かう。

男の名は、翁雅 春翠(おうが しゅんすい)という。

黄緑の淡い色に負けない優しげな顔立ちだ。

 そして、春翠が店を出た少し後。

警察が老女の店に来ていた。

「ここら辺で黄緑の袴に紅い髪と瞳で、刀を差した男を見ていないか」

「ついさっき黄緑の袴を着た刀を差した男は来たけど、髪と瞳は黒かったよ」

「なんだと。その男はどっちへ向かった!」

老女は指を指す。

質問をしていた警察はその方角を見た。

「街へ向かったのか…。
わかった。ありがとう」

「あの人が一体何をしたんだい?」

老女が問うと、男は答えた。

「……。
ここから少し離れた山で、旅人の金品の盗みを働いていた悪党共が、全員戦闘不能の常態で発見された。
いくら悪党とは言え、事情聴取をしないわけにもいくまい」

男はそれだけ言うと、店を出た。