「…花火大会…?」

LINE画面を開いた私は、そう呟いていた。

8月も終わりに近づいてきたというのに暑さはなくなるはずも無く、やることもなければしたいこともない。誘拐犯さんは仕事でおらず退屈極まりない夏休み後半にやってきたそのお誘いは、とても興味深いものだった。

『毎年やってるけど、行く予定ある?』

顔文字の付いたその単純な文面から、友達である少女の楽し気な顔が容易に想像できた。
行く予定は特になかったけれど折角だから誘拐犯さんと一緒に行ってみようかなと考える。

しかし、今は彼女から誘われている訳であって、暫く返信に迷っているとメッセージが来たことを告げる着信音が鳴った。


『もしかして一緒に行く人決まってたりとか?』

ぎくりとした。
語尾についたクエスチョンマークのイントネーションを彼女の声で脳内再生させながら、怒っているのか、ただ純粋に聞いているだけなのか考えた。
声で聞けば伝わるのに、文面だとどうにもうまくいかない。
技術の発展をこんなところで恨むことになるとは思ってもいなかった。


『うん、一緒に行きたい人がいるの。ごめんね』


誘ってもらっておいてこれはどうなのだろうと考えるも、こう言うしか他なかった。
彼女はとても心優しく寛大な女の子であるけれど、ひと夏の思い出、きっと綺麗であろう花火を見るのはあの人の隣がいい。


『そっか、よかった!私ちょうど用事があって行けないから~』


行けないんかい!!

心の中で盛大にツッコミを入れた。今までの私の真剣な思考回路を一体どうしてくれるというのだろう。


『浴衣、もしよかったら貸すよ!どうせ持ってないでしょー』


私の頭の中など知りもしないだろう彼女はトントン拍子で話を進めていく。
余計なお世話だ、と送ってやろうとも考えたが、浴衣を持っていないことは確かだったのでその有り難い話を蹴るわけにもいかず、結局浴衣を借りることになった。