ひだまりのようなその形に幸福論と名前をつけたなら

心地の良い風が髪を弄ぶ。
気にしたことはなかったけれど、思えば腰のあたりまで伸びてしまった髪を触って、ふと思いついた。


「ねぇ誘拐犯さん、私の髪切って!」

「また随分と唐突だね」

私のその提案は、仕方がないという顔をした誘拐犯さんに渋々承諾された。
大きく広げた新聞紙の上に座らされた私は、後ろでてきぱきと準備をする誘拐犯さんを見ていた。


「どのくらい切るの?」

「んー…結べるくらい?ていうか、誘拐犯さん髪切るの慣れてるの?」

細かい注文は特にせず大雑把に伝えつつ、慣れた様子で聞く誘拐犯さんに私は尋ねた。


「…まあね」

暫くの沈黙の末に帰ってきた返答は短いもので、私はそれ以上何も言わず、髪を触る手の感触をそっと楽しむ。
くしで私の髪をといた誘拐犯さんが横髪の束を手に取って前にまわした。
手で切る位置を確認する誘拐犯さんに私は頷く。


「別に期待とかしてないから、そんな気張んなくていいよ」

「気張ってねーよ。生意気なこと言ったら、バリカンで剃るぞ」

「それは嫌。もう言わないから許してください」


流石に坊主になるのは嫌だったので素直に謝ると、よろしい、と教師の如く偉そうな返事を寛大な頷きと共に返されたので、堪らず吹き出た。
誘拐犯さんはいつも不愛想なくせして、時々こういうおちゃめなことを言ったりもする。
ギャップ萌えというのはやはり恐ろしいな、と常々感じる今日この頃。