そうして二人一度も会話をしないまま、学校に着いた。
車を降りて、来客用の玄関で受付を通して校内へ進む。
上靴とは違う緑のスリッパはやけに冷たい。
廊下を行ったすぐのところに職員室。担任はそこで待っていると言っていた。
担任は中年のおじさんで、声がでかくていつも唾を飛ばして喋っている。
私はその大きな声が苦手だった。如何にもな正論を、私が絶対だと言わんばかりに主張するその声が苦手だった。
私が顔を出せば、担任は案の定、必要以上の大きな声で私の名前を呼んでからこちらへ向ってきた。そして、“親戚”が想像するよりも若いことに驚いていた。
何度も親戚かと尋ねる担任に、誘拐犯さんは
「はい。この子の叔父です」
と真顔で応える。
私の叔父さんはもっと無責任で、子供が嫌いな人だよ。
そんな事は当然言えず、私もこくこくと頷いた。
