素知らぬ振りでそっぽを向いていた誘拐犯さんに声を掛ける。
こういうときだけ責任は丸投げだなんて、やっぱり誘拐犯さんはいけない大人だ。
行きたくないなら行かなくていい。そう言って私を絆したのは誰だと思っているのだろうか。


「明日、学校行く」

「いってらっしゃい」

「誘拐犯さんも一緒に」

「ふーん……は!?」




この時初めて、誘拐犯さんの大声を聞いたかもしれないと思った。






実のことを言うと、担任に「親戚の家にいました」と言ってしまったのが失敗だった。
そもそも一人暮らしをしている時点で親戚などいないのだから気づいてほしくはあるけども、担任も相当ご立腹だったらしく。

「その親戚さんも一緒に来なさい!」

と言われてしまった。

けれども親戚などいる筈もなく、かと言って一人で行くわけにもいかない。

そうなれば一緒に来るのは必然的に誘拐犯さんになるのであって、どんなに本人が嫌がろうとも仕方のないことなのである。