翌日、起きてすぐに検査の時間がきた。
球次(どうか退院出来ますように…。)
昨日から何十回も心の中で唱えた言葉だった。
検査を一通り終え病室に戻った。
そこには笑顔の父と母がいた。母は楽しそうに俺の幼少期ことを父に話していた。
母「それでね球次ったらどうしても帰りたくないって泣いてたのよ。すぐ向かいの家なのに。」
父「よほど楽しかったんだろうな。やっぱり――」
球次「父さん、仕事はいいの?」
俺がカーテンを開けて話しかけると父と母はビックリした顔をしていた。
父「休みをとったから大丈夫だよ。それより球次、体は大丈夫か?」
球次「心配しなくても大丈夫。もうなんともないよ。」
母「検査は終わったの?」
球次「さっき終わったとこ。」
父「いま母さんとお前の話をしてたとこだったんだ。球次、次は母さんの話をしてくれないか?まだ聞いたことがなかったから。」
球次「母さんはね――」
それから三人で時間を忘れて昔の話をした。
12時を少し過ぎた頃、診察室に呼ばれた。
もうすぐ退院できるかが決まると思うと緊張で鼓動が速くなってるのが分かった。
緊張したまま診察室に入った。
医者もそれを感じたのか
医者「そんなに緊張しなくていいよ。」
と言ってくれた。
俺も少し余裕ができて父と母の方を見た。すると、どっちも俺以上に緊張していた。
俺は小さく笑った。
ホワイトボードに俺のレントゲン写真が貼られた。
1枚目は入院前の写真。2枚目は手術後、3枚目は今日の写真だった。
俺が見ても分かるくらいにはっきりと違うところがあった。
1枚目にあった塊のようなものが3枚目では綺麗になくなっていた。
医者「不思議なくらいに綺麗になくなってるし、後遺症も残ってないみたいだね。」
球次「じゃあ――」
医者「おめでとう。明日には退院できるよ。」
俺はその言葉を聞いた瞬間、全身の力が抜けるような感覚がした。
父と母は隣で笑ってるのか泣いてるのか分からない顔をしていた。
そんな顔を見ていて、気づいたら俺まで涙を流していた。
球次「先生、ほんとにありがとうございました。」
医者「いい親御さんですね。」
球次「自慢の父と母です。」
医者「お大事にね。」
俺は会釈をして診察室を出た。その後に父と母が涙を拭きながら出てきた。
俺は病室に戻り、荷物を整理していた。何かをしていないと夢なのではないかと思ってしまう。
整理した荷物の中に奏から貰った本を見つけた。
俺は栞の挟んであるページを開いた。
主人公「これまで守ってもらってばかりだった。今度は俺が守ってあげるよ。」
物語ではありふれた台詞だったが今の俺はこの言葉にとても惹かれた。
奏のこと、父のこと、母のこと…。これまで支えてくれた多くの人々にはちゃんと恩返しをしたいと思った。
その日は出来ることはなんだろうと考えた。
答えは意外と簡単なようでとても難しかった。
それは『生きること』だった。自分はこれから生きていく中で色々な困難を乗り越えなければならない。
そんな時、これまでは誰かに頼ることを心のどこかで拒んでいた。その結果、両親や奏の事を悲しませた。だからこれからは誰も悲しませないように生きていこうと思った。
困った時は周りに助けを求めたっていいんだ。そうする事で苦しみや悲しみが減ると思った。
たくさんの事を考えていたらいつの間にか病室に夕日が差していた。
球次(明日には退院できる…か)
まだ実感がわかなかった。
奏には内緒にしておいて明日ビックリさせてやろうと思った。
その日の夜はぐっすりと眠ることができた。
To be continued...