私は球次にメールを送ったあと、職員室に行った。

奏「先生。球次の側にいてあげたいので早退させて頂けませんか?」

先生「ダメだ。…と教師なら言うべきだろうが教師の前に私も一人の人間だ。行って来い!」

奏「ありがとうございます!」

私は急いで病院に向かった。

受付に行くとすぐに手術室まで案内してくれた。そこには一人の看護婦さんが立っていた。

看護婦「あなたが奏さん?」

奏「はい。そうです。」

看護婦「球次さんが奏が来るだろうから渡しておいて下さいとこれを。」

看護婦はそう言うと一冊の本を私にくれた。

奏「これは?」

看護婦「奏さんが待ち時間で退屈しないようにって球次さんから。おすすめの本って言ってました。」

奏「そうですか。ありがとうございます。」

私がそう言うと看護婦は仕事に戻っていった。

私は本を開き読み始めた。球次の好きな物を共有しているようで嬉しかった。

だんだんと時間は過ぎていき、もう外は暗くなっていた。

午後6時半を過ぎた頃、球次の両親が息を切らしてきた。

母「カナちゃん来てくれてたの?」

奏「はい、心配でいても立ってもいられず…。」

父「ありがとう。球次のために。」

球次の両親と話していると集団の足音が聞こえてきた。

楓太「悪い。遅くなった。」

奏「来てくれたんだ。」

楓太「親友を応援するのは当たり前だろ!」

監督「球次くんは?」

奏「まだなんとも言えません。」

他の部員はみんな祈るように手を合わせている。

楓太「球次なら絶対大丈夫だって。」

奏「そうだね。私達が元気出さないと。」


その後、無言のまま時は過ぎ夜の8時をまわった。

監督「もう遅いから生徒は帰りなさい。家の遠い人は私が送るから。」

奏「私はこのまま残ります。最後まで一緒に闘うって決めたので。」

監督「分かりました。私も生徒達を送ったらまた来ます。」


時間は過ぎ、一向に手術が終わる気配もなく夜中の1時になった。読んでいた本も最後の数十ページになっていた。

奏(球次…帰ってきて。)

1時半をまわった頃、手術室のランプが消えた。中から医者が出て来て言った。

医者「手術は無事に終わりました。」

奏「球次は助かったんですね?ありがとうございま――」

医者「ですが!いまだ目を覚ましません。」

奏「それって――っ!」

私はその場に崩れた。昨日までは元気に話していた球次が何も喋らず目も開けないなんて信じられなかった。

私は立ち上がり球次の側に駆け寄った。

奏「球次、帰ってくるって言ったじゃん。また一緒に学校に行ったり、デートしたりしようよ。ねぇ…」

私の声は部屋中に虚しく響いた。

私は球次の側で眠ってしまった。こうしていれば球次が目覚めるんじゃないかと思った。

私は夢を見ていた。夢の中で私は暗い道を一人で歩いていた。一本の道をゆっくり進んでいくと道が二本に分かれていた。どちらも先が見えない真っ暗な道だった。

すると不意に腕を引っ張られた気がした。引っ張られた方向に進んでいくとまた分かれ道があった。その後も分かれ道の度に腕を引っ張られた。

ある程度進むと分かれ道がなくなり真っ直ぐな道が続いた。すると道の先に光が見えた。その光は今にも消えそうなくらい弱かった。

私はその光に駆け寄り優しく胸に抱いた。するとその光は輝きを増していき、最後に消えた。

私は目を覚ました。そして球次を見た。起きる気配はない。私は泣いた。涙が枯れそうなくらい。

その時、頭に何かが乗った。ビックリして顔を上げると、そこには目を開けて笑いながら私の頭を撫でている球次がいた。

奏「球次!」

球次「いきなり大声出すなよ。」

奏「ごめん…っ!嬉しくてつい。」

球次「もう少しで死ぬとこだった。でも奏の声が微かに聞こえてきて帰らなきゃって思った。」

球次は続けた

球次「そんで起きたはいいけどベッドで奏が泣いてたからどうしようかと思ってね。」

奏「もう起きてたの!?」

球次「驚かそうと思って。」

奏「バカっ!心配してるこっちの身にもなってよ。ホント心配したんだから…」

球次「ごめんなさい。」

奏「誤って済むなら警察は要らないよ!」

奏「ちゃんと約束果たしてもらうからね!」

球次「約束?」

奏「結婚!」

球次「あー!分かってるよ。卒業後に就職して収入が安定したら結婚しよ?」

奏「そんなに待てるかな。」

球次「待ってろよ。すぐだから。」

奏「分かった。待ってる。」

球次はなにか思いついたように言った。

球次「奏、いいこと考えたんだけど。」

奏「なに?」

その後、球次と話し合って球次の両親にサプライズを仕掛けることにした。


To be continued...