朝、起きて荷物を車に積み終えると俺は奏にメールをした。

メール:おはよう。じゃあ行ってきます。

車に乗り出発しようとした時、

奏「待って!」

声のした方を見ると奏が立っていた。

球次「奏!?学校は?」

奏「遅刻覚悟!」

球次「アホか!昨日あれほど言ったのに。母さん奏のこと学校に送ってから行こう。」

母「いいけど。」

奏「え、でも…。」

球次「早く乗れ。どうせ通り道だし。」

奏「じゃあお言葉に甘えます。」

奏は車に乗り込んだ。

母「とばすわよ〜。」

球次「病人乗ってんだから安全運転でお願い…。」

母「冗談よ、冗談。」

球次「冗談に聞こえないよ…。んで?奏はどうして待ってたんだ?」

奏「どうしても球次に渡したい物があったから。」

そう言って奏はポケットから何かを取り出した。

奏「目を閉じて腕を出して。」

俺は言われた通りにした。

数秒たって奏が、

奏「目開けていいよ。」

と言ったので目を開けて腕を見るとヒモ状のものが結びつけてあった。

球次「これは?」

俺が聞くと、

奏「それはミサンガって言うの。切れた時に願い事が叶うんだよ。」

球次「奏が作ったの?」

奏「うん。不格好だけど頑張って作った。」

確かによく見ると太さが違ったりしているけど奏が頑張って作っている姿を想像すると涙が出そうになった。

球次「すごく嬉しい。ありがとう。」

奏「うん!」

そんなやり取りをしていると母がニヤニヤしながら、

母「お楽しみのところ申し訳ありませんがそろそろ学校につきますよ〜。」

球次「奏。病院にちゃんと顔出せよ?」

奏「心配しなくてもちゃんと行くよ。」

奏がそう言うとちょうど学校に着いた。

球次「ありがとう。行ってらっしゃい。」

奏「うん。行ってきます。」


俺と母は病院へ向かった。

病院に着くと早速病室に案内された。

俺は少し不安になった。

球次(本当に治るんだろうか。もし治らなかったら、死んでしまったら、奏は悲しむだろうか…。)

いろんな思いが頭をよぎった。でも奏がくれたミサンガを見ると不思議と前向きに物事を考えることができた。

球次(これがなかったら俺はすぐに塞ぎ込んでしまっていたんだろうな。ありがとう…奏)

手術の時間まで何をして過ごしたらいいのか分からなかった。

昨日買った本を暇潰しに読んでいると、時を忘れふと気がつくともう正午だった。

球次(早く学校終わらないかな〜。)

俺はこの時、奏に会いたくて仕方なかった。たった数時間でも俺にとっては数週間会っていないような感覚になった。

俺は家から持ってきた本を一冊手に取り読み始めた。

その本は一人の子供が異世界へ行きそこの住民たちと世界の救済をするという話だった。

こういった物語はあまり読まないほうだったけどこの日だけは違った。段々と物語りに引き込まれ、気づくと日が西に傾いていた。

球次(そろそろ部活が終わる頃かな…)

奏が来るのを待っているだけで胸が苦しかった。

午後5時を過ぎた時、廊下から走る足音が聞こえた。

ガラッ

奏「ヤッホー!起きてる?」

球次「起きてるよ。あと廊下は歩こうよ…」

奏は申し訳無さそうに

奏「すみません。」

と言った。奏のその顔を見るとこれ以上注意する気にはなれなかった。

球次「最近部活どう?」

俺が聞くと奏では顔を上げて話し始めた。

奏「今は楓太が部を仕切ってるよ。今日の練習では球次がいない代わりに楓太が最初から最後まで後輩の面倒見てたよ。」

球次「そっか楓太がね。…奏。」

奏「ん?なに?」

球次「楓太に頑張りすぎるなよって言ってやって。」

奏「そんなの自分で言いなよ。」

球次「俺が言ったってどうせ聞かないから。」

奏「分かった言っとくよ。」

球次「ありがとう。」

奏はとっさに後ろを向いた。

奏は声を抑えて静かに泣いていた。

球次「奏!?どうした?」

奏は泣きながら言った。

奏「明日手術でしょ?…もし球次の目が覚めなかったらって思うと――。涙が止まらないよ…。」

球次「奏…。大丈夫!」

奏「球次?」

球次「俺は死なないし、ちゃんと元気に奏の前に戻るから。だから泣くなって。」

奏「絶対だからね。絶対帰ってきてね。」

球次「分かった。約束するよ。」

奏「――うん!」

奏「遅いからもう帰るね。」

球次(言わなきゃ!ずっと言いたかった事を…)

球次「待って!」


To be continued...