球次「は〜。テニスして〜なぁ〜。」

俺しかいないこの病室に独り言が響いた。

その時、

ガラッ

突然母が入ってきた。

球次(分かりやすい作り笑いだなぁ。)

球次「おはよ〜。ごめんね迷惑かけて。」

笑顔でそう言うと、母は[我慢]という名の栓が抜けたように大声で泣いた。

球次「どうしたんだよ。子供みたいに泣い…」

見上げた母の顔には悔しさや無念さといった感情が表れていた。

俺は言葉を失った。

母「ごめんね…。全く気づいてあげられなくて。」

球次「だから何なんだよいきなり。」

その時、

ガラッ

医者が入ってきた。

医者「やはり隠すことはできませんでしたか…。」

医者「お母さん…、息子さんに話してあげて下さい。」

母「しかし…。」

医者「お辛いのはわかりますが、それが息子さんのためでもありますので。」

俺はわけもわからずそのやり取りを聞いていた。

球次(俺のこと…だよな。ただの過労じゃないのか?)

球次「母さん、俺は…」

母「球次…、伝えるべきか迷ったんだけど……ちゃんと分かったうえであんたがどうするか決めて欲しくて。」

球次「なんだよ急に改まって、どうせ大したことじゃないんだろ?…ねえ!!」

母「・・・」

球次「・・・」

長い沈黙の後、

球次(きっと大丈夫だ…)

球次「分かった。ちゃんと聞くよ。」

母「ありがとう。…あなたの頭の中に腫瘍が見つかって、手遅れになる寸前なんだって…それで…」

球次「えっ?それってまさか…!嘘…だよな?嘘って言ってよ…母さーー」

母「だから!」

母は俺の言葉をさえぎるように強く言った。

母「すぐにでも手術しないと死ぬ可能性もあるんだって。手術しても成功する確率は20%以下、成功してもテニスはもうできないだろうって。」

そんな...なんで

母は泣いている。

俺も…泣いた。

球次「先生、1日だけ待ってくれ。頼む!」

医者に向かって頭を下げた。

医者は後ろを向き、

医者「いいでしょう。しかし、時間がないので決断は早いほうがいいでしょう。」

球次「分かってます。」

医者「では…」

ガラッ

球次「母さん一人にしてくれる?まだ俺泣きたりねーよ。」

母はまた泣いて

母「分かった。また明日来るからね。バイバイ…」

球次「バイバイ。」

ガラッ



球次「〜〜〜〜〜〜!」

俺は声にならない声で泣いた。

こんなに泣いたのはいつぶりだろうか

俺はその後、声が枯れるまで泣いた。


To be continued...