世界は、知らない方が良い事で溢れている。


例えば、先週食べたカップラーメンが実は賞味期限切れだった事とか、バレンタインデーの日にクラスの女子から貰ったチョコレートが余り物だった事とか。


父が浮気をしていた事とか、母が住んでいるマンションの15階から飛び降りようとしていた事とか。


全部知らずに生きられたら、きっと幸せだった。


重い瞼をあげると、無機質な白が目に飛び込んできた。


その眩しさに思わず目を塞ごうとして、左手の違和感に気付いた。