「で、何で私が引っ越すと狙われるんですか」
ぷしゅ、とビールが少し顔に飛んできたのにイラッとしながらグラスにビールを注いだ。
くっくっと隠れて笑う彼に横にあったクッションを投げつけた。
そしてふんっとそっぽを向いてやると彼は言った。
「このマンション自体が父さんの所有地だからもともとマークはされてんだよ」
そう言いながら、彼は私がビール注いでいたグラスをひょいと持ち上げ一気に飲み干した。
ムカつきながら「じゃあ何でここに住んでんの」と聞くと
「わざとだよ。まさか向こう側もここに住むとは思わないだろ。」
「私関係ないでしょ」
今度はグラスを取られないよう彼から離れた位置に置いてビールを注いだ。
ざまあみろとドヤ顔で彼を見ると面白くなさそうに首を振った。
「マークされてるから、住人の動きがあるとその住人が何年住んでたか、とか管理人が知ってる情報は全部向こうにいく。特に俺らは同居してるから一発でバレる」
「それ、犯罪じゃないの?プライバシーの侵害でしょ」
「ここ、父さんのマンションだから」
呆れてものが言えない。
ようやく私はビールを飲み干した。
…あんまり好きなビールじゃないな。
「あっ」
彼が立ち上がりビールの缶ごと持ち上げた。
「何よっ、私のビールでしょ!」
「いやそれ俺のために買ったやつ。お前のためとは一言も言ってない」
「っ雅って本当、」
“そういうの好きよね”
言いかけて、やめた。
「…なんだよ」
「なんでもない」
…私は、どうでもいいんだ。
雅が男でも女でも、どうでもいい。
