「ううん、それは悔しさを通り越して、侮辱になってたかもしれません。ああやって手加減なしに戦えたから、素直に悔しがれたんだと思います。手を抜かれて勝ってたら、憎悪が強くなって、嬉しい事はないと思います」

「ああいう年頃はややこしいからな。でも奴は上手かったと思う。俺が勝てたのはまぐれだろう」

「まぐれであったとしても、あの勝敗はセイ君にはとても意味のあるものでした。先輩がセイ君を認めた。それが彼には伝わりました。もし、セイ君が勝ってたとしたら、こんな展開にはならなかったと思います」

「それって、あいつが負けてよかったってことか?」
「そういう勝ち負けの意味じゃなく、セイ君が天見先輩と真剣に向き合えるきっかけに繋がってよかったって思うんです」

「セイにしかわからない感覚なんだろうけど、セイも多感で俺がノゾミと係わった事で余計な気持ちが入り込んだんだろう。輪を乱されたくないというのか、男心というのか」

「それは……セイ君は確かに複雑な思いを秘めてます。いつか直接セイ君から訳を訊いて下さい」
 ノゾミはいいにくそうにしている。

「わかった、わかった。それは別にどうってことないんだ。とにかく勉強を教えるって事になって、俺は今頃になって戸惑ってるんだ」

「それなんですけど、セイ君も勢いでああいってしまったけど、天見先輩の負担になる事は避けたいみたいです。ずっと教えて欲しいって訳じゃなく、今度の中間のテストの点をとにかく上げたいそうです」