俺が率先して屋上に続くドアを開ければ、それは簡単に開いて、冷たい風がすぐさま俺たちに向かってきた。
 吸い込まれるように俺たちは外に出た。

 街が見下ろせる場所まで来ると、ノゾミは肩に掛けていたバッグを足元に下ろした。
 そこについていた緑色のマカロンが跳ねあがる。
 俺のバッグにもピンク色のものがついている。

 俺が言葉にできない気持ちを抱え、マスコットを見て微笑んでいる時、ノゾミは何度も深呼吸し、息を整えていた。

 眩しそうに目を細め、太陽に体を向ければ、光に当たった肌の白さが透き通るようだ。
 可憐に咲こうとするスイスの山にしか生息しない幻の花──エーデルワイスが頭に浮かんだ。
 高貴でいてとても儚いものに思えた。

「大丈夫か」
 なんだか倒れそうにも思え、俺はついそんな言葉が口をついた。

「はい、大丈夫です」
 にこっと微笑むノゾミは、俺の前では常に無理をしているように思える。

 それでも、最初に会った頃よりは少し余裕が出てきたようだ。
 息が整うとノゾミは俺に向き合った。

「セイ君、天見先輩に会ってよかったって言ってました」
「そうか、それにしても、かなり難しそうな奴だったが」

「自分でもまだどう思っていいかわからなかっただけだと思います。バスケットの試合に負けた事はとても悔しがってました」
「まだ根にもってるのかよ」

「セイ君はどうしても先輩に勝ちたかったから」
「それじゃ俺は負けてやるべきだったかもな」