腰を屈めてセイは取り出し口に手を突っ込み、落ちてきたマスコットを鷲掴みにして引き出した。
 ピンク、水色、緑と淡く優しげな色が付いた丸いマスコット。

 それはマカロンを形どっていた。
 それを全部ノゾミに渡していた。

「ありがとう。でも、こんなにもいいよ」

 ノゾミは遠慮してるが、セイのそのさりげない行為に俺はなんだか悔しくなった。
 それは俺がしたかったことだった。

「お前、すごいな。3つも獲って、惜しげもなく人にやるなんて」
 さらりと言ったつもりだが、余計な事をしてと思う部分が少し入っていたかもしれない。

「別に、大したことない。商品も特徴あるものでもなく、人気もなさそうだし、この機械はサービス台だから、比較的簡単に取れやすくなってる。こういうのを置いておいて、客にサービスしてるんだ」

「でも一回で3つだぞ」

「これは掴もうとするんじゃなくて、落とそうと逆に押し込むんだ。そうしたら、バランスを崩して落ちてくる。きっと商品を詰めたばかりだったんだろう。かなり獲りやすくなってただけだ」

「いやいや、そういう攻略もちゃんとわかって台を見極める。観察力があるし、かなり計算高い。俺はそこまで考えられない」

「何言ってんだよ、学校一の秀才が。勉強ではすごい癖にさ」

「ノゾミから何を聞いてるか知らないが、俺は大した奴じゃない。テストで高い点を取れたからって、全てがすごい訳でもない」

「顔もいいじゃないか」
「はっ? そんなの年取ったらどうなるかわかんないぜ。禿げるかもしれないし、太るかもしれないし」

「でも、今は人が羨むものを確実に全て手にしてるじゃないか」
「全てって…… あのな、俺は今の自分に満足したことないぞ。俺だって、不満はあるし、辛いと思う事もある。人はそれぞれ悩みを持って、闇を抱え込んでいるというもんだ。表面だけを見て決めつけてほしくないな」

「嶺の悩みってなんだよ」

 セイは俺を呼び捨てにしやがった。
 でも、名前を呼んだことで、少しは俺という存在を認めたのかもしれない。

「その悩みを簡単に人に言えないから俺は闇を抱えてるんだ」
「だったら、その闇をどう処理するつもりだ」
 さっきから色々と突っ込んできて対抗してくるが、俺を見つめるセイの目はそれを知りたいと真剣だった。