先輩、一億円で私と付き合って下さい!

 セイと俺は所定の位置で向かい合う。

 俺がボールを真上に投げたのを合図に、それは始まった。
 ノゾミもその時、ストップウォッチを押した事だろう。

 その瞬間から、小刻みに秒が流れ出す。
 5分間の勝負。

 背が高い俺の方が先に落ちてきたボールに手が届き、すぐさま奪い取ったが、セイはそれを見越していたのか、積極的にボールを取りにはこなかった。
 
 それが意外だったから、「あれっ?」と拍子抜けしてペースが乱れ、隙が出来てしまった。
 気が付けば俺が手にしてたボールははたかれ、セイはすぐさまゴールに向かっていた。

 いとも簡単にそれはゴールを潜り、あっという間に一点取られてしまった。
 最初は俺に容易くボールを取らせ、油断させたところを狙ってきたのだろう。

 まんまとひっかかったことが俺のプライドを傷つけた。
 セイはここで自信を取り戻し、俺に勝てるとその目を光らせていた。

 俺もうかうかしてられない。
 身長さがある分、俺の方が有利だと無意識に思っていたが、セイはちょこまかと動いて俺の動きを良く見ていた。

 俺が左右に向きを変えてドリブルをすれば、しっかりと俺に食いついてくる。
 緩急をつけても、その速さに合わせている。

 俺はにやっと笑う。
 こういうタイプはフェイントに弱い。

 俺は勢いつけて抜くぞとドリブルを見せかけ、右に動くフリをしてそこで一瞬動作を止めれば、セイは素直に反応してそれについてきてしまい、勢い余って前のめりにバランスを崩していた。

 その間に俺はセイのディフェンスを潜り抜け、ゴールに向かってランニングシュートを決め込み、余裕で一点を入れた。

 セイは特に何も言わなかったが、じっと俺を睨みつけている。
 転がってきたボールを手にしたとたん、腹立たしげに強く地面に投げつけた。
 その勢いのまま俺に迫ってくる。

 俺も気の抜けないものを感じ、通してなるものかと次第に熱くなっていた。