先輩、一億円で私と付き合って下さい!

「とりあえずお前も練習してみたらどうだ?」
 再び力強く俺に向かってきたボールをがしっと手にし、俺は少し楽しい気分になっていた。

「そっか、バスケか。実は俺も好きなんだ」
 肩に掛けていた鞄を足元にどさっと置くと、その場から動かず、ゴールに向けてボールを投げた。

 それはきれいな弧を描いてゴールの中へと吸い込まれていった。
 ボールが落ちて数回バウンドしているさ中、さっきまで余裕たっぷりに微笑んでいたセイの顔が急に強張った。

 セイはバスケが得意だから勝てる自信があったのだろう。
 俺を甘く見過ぎていたと、今は感じているのかもしれない。

 ノゾミが気を利かしてボールを拾いに行き、この場をどうしたらいいのかわからなくて落ち着かずにいた。

「まだ俺とバスケの勝負をしたいかい?」
 俺の言葉にセイは我に返り、先ほどよりもさらにきつく睨み返してきた。

「もちろんだ」
 セイはまだ幼げな表情を残しつつ、勝負に挑むその力強さを通して、男らしさが出ていた。

 本気で俺に挑んでくる殺気が感じられる。
 俺に負けたくない意地がヒシヒシと伝わり、俺も手を抜かずに真っ向からぶつかろうと決め込んで制服のブレザーを脱いだ。

 ノゾミがちょこまかと俺に近寄ってきたので、俺は足元の鞄とジャケットを彼女に渡し、それと引き換えにボールを受け取った。

「それじゃ勝負といくか」

 俺の掛け声で、ノゾミはストップウォッチに手を掛けた。
 その後、俺たちの邪魔にならないよう、適度に距離を開けた場所に佇み、荷物を足元に置いて行く末を見守る。

 その時、ノゾミは不安で俺のジャケットを強く抱きしめているように見えた。