優しい日差しが教室に入り込み、ポカポカとして穏やかな土曜日の半日授業。
 教室はお気楽モードでどこか浮つき、俺も前日の事を考えていた。

 最初は、いい迷惑だと思ったが、全てが上手く行った後では、自分が役に立ったことが誇らしげでもあった。

 下北の行為に腹立つも、ユメが終わった事だからと、全てを水に流してしまった後は、俺もいつまでも苛立っても仕方がない。

 反面教師のように、俺はああいう人間にはなりたくないと強く肝に銘じるだけだ。

 不運で後悔してもしきれず、過去に戻って出会いをなかった事にしたいとユメは笑っていたが、それよりも戻れるのならもっと遡って、ノゾミに優しくしてやりたいと言い出した。

 いい姉でない自分を懺悔するように、俺に色々とノゾミの事を話してくれた。
 それを聞いていると、まだ会った事もない腹違いの弟の事を俺は考えてしまった。

 俺も一方的に弟の境遇に嫉妬していた。
 でもユメを見ていると、俺にも学べるものがあった。

「いい、いつ後悔するかわからないんだから、今を精一杯大切にしましょう」
 俺も弟を妬んでると言ったから、そんなことを忠告してきた。

「そういえば、ノゾミの他に弟がいるんですよね」
「あら、そんな事まで知ってるの? 私にとったら弟になるけど、ノゾミとは血が繋がってないわ」

「えっ?」
「だから、私の本当の母の息子ってこと。あっちも再婚して、その後弟ができたの」

「そうだったんですか」

「たまに会ったりするけど、弟もかなり複雑な心境で、扱いにくくて大変。でも私とは一応姉弟になるから、継母も父も気遣ってくれて、時々食事に招待して団らんの場を設けてくれるの。私の本当の母はそれが気に食わないんだけど、弟の方がケーキが沢山食べたいって来ちゃうから、断れなくて」

「ノゾミもそこで気を遣ってるってことですね」
「その通りよ。ほんとに子供って親次第で大変よね」

 やるせなく笑った表情は印象的だった。
 きっと下北の生まれてくる子供の事も気遣っていたのだろう。

 あんな最低な男でも子供が生まれれば父親になる。
 腹は立つが、子供に影響する波風を立てたくなかった。
 この人ならきっとそこまで考えているに違いない。

 俺よりも複雑な環境。
 それぞれの家庭で枝分かれして腹違い、種違いの妹弟がいる。

 でも根本的な部分では俺も同じだ。
 だからノゾミも自分の事のように姉の父親違いの弟を気遣い、何かと手伝おうとしているのかもしれない。

 社交辞令で、セイの問題解決に協力すると格好だけはつけてしまったが、事情を知った今、無視できなくなった。
 皆、多様に複雑で、俺と同じような境遇を持つ者がいる。

 少なくとも今、少し気分が楽になった。
 そんなことを考えていると、チャイムが鳴り、授業が終わった。